無名鬼日録

読書にまつわる話を中心に、時事的な話題や身辺雑記など。

夢千代日記・名シーン

表日本は雨の日でも明るい。

裏日本は晴れの日でも昏い。

 ドラマ『夢千代日記』でリフレインされるこのような表現は、現在では使用がためらわれる言葉となっている。主人公の夢千代(吉永小百合)や芸者金魚(秋吉久美子)をはじめ、渋い演技でドラマを彩る人々の顔は、一様に愁いを帯びて、昏い。

 しかし、そんなドラマも最終回(第五回)では、思いがけない夢千代の笑顔に出会うことができる。身寄りのない足の不自由な少女・時子(中村久美)が、「はる屋」から半玉・小夢となって座敷に出ることになり、夢千代は小夢を連れて温泉街を挨拶に回るのだ。

 ドラマの結末近く、芸者菊奴(樹木希林)の三味線で、旅館の座敷で三人が貝殻節を踊るシーンがある。小夢を真ん中に、夢千代と金魚が左右に並ぶそのシーンを見て、私は改めて深町幸男の演出に、人間を描く優しさに感じ入った。

 

何の因果で 貝殻漕ぎなろうた

(カワイヤノー カワイヤノ)

色は黒うなる 身はやせる

(ヤサホーエヤ ホーエヤエー

 ヨイヤサノ サッサ

 ヤンサノエー ヨイヤサノ サッサ)

 

合いの手の部分でくるりと回らなければならないのだが、足が不自由な小夢の手を、夢千代と金魚がさりげなくつなぐ。延べにして四時間近いドラマの中で、いちばん美しいシーンだった。