無名鬼日録

読書にまつわる話を中心に、時事的な話題や身辺雑記など。

2018-07-01から1ヶ月間の記事一覧

『現代日本名詩集大成・全十一巻』

昭和四十年(1965)の春、私は高校生になった。中学生の頃から人並みに文学に目覚め、教科書に取り上げられた近代詩に親しみはじめていたが、初めてのアルバイトで得たお金で買ったこの詩の叢書に出会って強い衝撃を受けた。 それは主に、第十巻に収められた鮎…

『詩集TURN・TABLE』

高校生となった昭和四十年(1965)の秋、私は友人たちと語らって『鞦韆』と題した同人詩誌を発行した。創刊号は模造紙にガリ版刷り、B5版二十ページの体裁だった。誌名の「鞦韆」は、もとより蘇軾の七言絶句「春夜」からだ。 春宵一刻値千金 春宵 一刻 値千…

夢千代日記・名シーン

表日本は雨の日でも明るい。 裏日本は晴れの日でも昏い。 ドラマ『夢千代日記』でリフレインされるこのような表現は、現在では使用がためらわれる言葉となっている。主人公の夢千代(吉永小百合)や芸者金魚(秋吉久美子)をはじめ、渋い演技でドラマを彩る…

映画『山桜』

平成二十年(2008)に映画化された篠原哲雄監督「山桜」は、ヒロイン野江を田中麗奈が、手塚弥一郎は東山紀之が演じる。原作の「山桜」は、昭和五六年(1981)に青樹社から刊行された藤沢周平の短篇集『時雨みち』に収録され、現在は新潮文庫に収められてい…

木山捷平『酔いざめ日記』

今年は木山捷平の没後五十年ということで、岡山市の吉備路文学館で特別展が開催されている。宣伝の惹句にもある通り、その作風は「飄々、洒脱、そしてユーモア」と評されるが、実生活の木山は短気で怒りっぽく、妻のみさおを手こずらせた男だったそうだ。木…

「青梅雨」

十九日午後二時ごろ、神奈川県F市F八三八無職太田千三さん(七七)方で、太田と妻のひでさん(六七)養女の春枝さん(五一)ひでさんの実姉林ゆきさん(七二)の四人が、自宅六畳間のふとんの中で死んでいるのを、親類の同所一八四九雑貨商梅本貞吉さん(四七)がみつ…

詩のことば

荒川洋治の『過去をもつ人』が、みすず書房から上梓された。これは、『夜のある町で』(一九九八)、『忘れられる過去』(二〇〇三)、『世に出ないことば』(二〇〇五)、『黙読の山』(二〇〇七)、『文学の門』(二〇〇九)に続く、みすず書房版としては…

「風天」の句

俳優・渥美清は、二〇〇六年(平成十八年)八月四日に亡くなった。今年は没後二十周年で、テレビの世界でも追悼番組が企画され、今夜放映された『寅さん、何考えていたの?~渥美清・心の旅路』(BSプレミアム)もそのひとつだ。 渥美清は、一九七〇年(昭和四五…