『槐多の歌へる』
村山槐多の詩文集『槐多の歌へる』(2008講談社文芸文庫)。その巻頭には、彼の代表作である「庭園の少女」と、「尿する裸僧」のカラー口絵が付いている。平成十年頃だっただろうか、私は夭折画家たちの作品収集で名高い長野県上田市の「信濃デッサン館」を訪ねたことがある。暑い季節で、館主の窪島誠一郎が短パン姿で受付にいた。
そう大きくはない館内で、槐多の「尿する裸僧」は、ひときわ異彩を放っていた。血の色と、破滅の色と呼ばれたこれがあの「ガランス」なのか。村山槐多は、二二歳の生涯を「ガランス」色で駆け抜けていった。残された、そんなには多くはない詩篇の中に、まさに「尿する裸僧」を謳った詩がある。
一本のガランス
ためらふな、恥ぢるな
まつすぐにゆけ
汝のガランスのチューブをとつて
汝のパレットに直角に突き出し
まつすぐにしぼれ
そのガランスをまつすぐに塗れ
生のみに活々と塗れ
一本のガランスをつくせよ
空もガランスに塗れ
木もガランスに描け
草もガランスにかけ
□□をもガランスにて描き奉れ
神をもガランスにて描き奉れ
ためらふな、恥ぢるな
まつすぐにゆけ
汝の貧乏を
一本のガランスにて塗りかくせ。
※伏せ字の□□は魔羅