「元気出さな」
遊びをせむとや生まれけむ
戯れせんとや生まれけん
遊ぶ子供の声聞けば
我が身さへこそ動がるれ
『梁塵秘抄』
『遊びをせむとや生まれけむ 遊びの水墨画』は、平成二一年(2009)一〇月に亡くなった青野健さんの遺稿作品集である。住み親しんだ奈良の地を愛する前口上には、渓流の釣りを愛し、酒を愛し、自然を愛し、そしてなによりも人を愛した健さんの想いが込められている。
神の時代からある丘陵はそのままの姿でよこたわっているし、
清涼な渓流はどこまでも澄んでいて、
天然の山女魚が泳いでいるし、
ぼくたちは休みの日、無心に毛鉤を振る。
湧水につけておいたビールはほどよく冷えていて、
その日の釣果を前に乾杯の夜がやってくる。
渓を走る水音、樹々の風の囁き、小鳥たちの讃歌。
ぼくたちは五感で生きていることを実感する。
ゆっくり ゆったり 脇目ふりふり。
渓で出会った山女魚や山菜と遊び戯れる。
土の恵みに感謝する。
青野健さんは、昭和九年(1934)大阪府に生まれた。昭和二八年(1953)大阪市立工芸高校図案科を卒業し阪急百貨店に入社、宣伝部に配属となった。その後、グラフィックデザイナーとしての活躍を経て、平成十一年(1999)にクリエイティブディレクターで退社するまで、ブックデザインやイラスト、挿画、揮毫など幅広い分野で活躍。平成三年(1991)から平成二一年(2009)までは、朝日カルチャーセンターで「遊びの水墨画教室」の講師を務めた。
水墨画家としての活動では、昭和六二年(1987)に初の個展を開き、ニューヨーク・RIVERDALE GALLERYをはじめ、父である日本画家・青野馬左奈との親子展など、病と闘いながら亡くなるまで作品を発表し続けた。
釣りが大好きです。
釣った魚を食べるのも好きです。
魚といっしょに風景を釣って、
少年の日に戻ります。
お気に入りの作品にもあるとおり、年を重ねても、少年の心を持ち続けた人だった。七一点の作品を収めたこの本の掉尾を飾るのは、私も大好きな小鳥が横目で語りかける「元気出さな」である。
おたく
落ちこんだら
あきまへん
元気
出さな